『赤の自伝』
アン・カーソン
小磯洋光訳
四六判、上製、256ページ
定価:本体2,200円+税
ISBN978-4-86385-539-7 C0098
装丁 緒方修一
装画 藤井紗和
怪物と英雄が恋をした。言葉が存在を解放する。
ノーベル文学賞最有力とも言われるアン・カーソンの代表作。
古代ギリシアの詩人ステシコロスが描いた怪物ゲリュオンと英雄ヘラクレスの神話が、ロマンスとなって現代に甦る。
詩と小説のハイブリッド形式〈ヴァース・ノベル〉で再創造された、アン・カーソンの代表作ついに邦訳!
これほど心を揺さぶる作品に出会ったのは久しぶりだ。
━━アリス・マンロー
アン・カーソンは前衛的で博識で心を掻き乱す書き手だ。
彼女の多彩な声と才能がおそらく最もよく表れている『赤の自伝』
人を惹きつけて離さない偉大な作品だ。
━━スーザン・ソンタグ
2022年9月全国書店にて発売。
【著者プロフィール】
アン・カーソン(Anne Carson)
1950年、カナダのトロントに生まれる。トロント大学で古典学の博士号を取得したのち、北米の大学で教鞭をとる。1998年、『赤の自伝』が全米批評家協会賞候補になり、詩人として広く知られるようになる。現在までにT・S・エリオット賞やカナダ総督文学賞など数々の賞に輝き、英語圏を代表する詩人の一人として目されている。翻訳家としても活動し、サッフォーの詩やギリシア悲劇などを手がけている。
【訳者プロフィール】
小磯洋光(こいそ・ひろみつ)
1979年、東京生まれ。翻訳家・詩人。イースト・アングリア大学大学院で文芸翻訳と創作を学ぶ。訳書にテジュ・コール『オープン・シティ』(新潮クレストブックス)、グレイソン・ペリー『男らしさの終焉』(フィルムアート社)。共訳書にアーシュラ・K・ル=グウィン『現想と幻実 ル=グウィン短篇選集』(青土社)。
書評
2022年
朝日新聞(10/26)「文芸時評」 母語の外で書く 言語の隙間がもたらす解放 評者=鴻巣友季子さん
《ギリシャ神話「ゲリュオン譚」の翻訳から生まれた快作だ。(……) 舞台を20世紀に移し、同性愛カップルの旅の物語に翻案した。(……)古代ギリシャの叙事詩の雄々しい韻律をすて、カーソンが採ったのは抒情的で韻律のないヴァース・ノベル(詩と小説の融合)の文体だ。内容、形式とも悉く「男のヒロイズム」の足を払って痛快。エクソフォニーのもたらす解放を感じた》
毎日新聞(10/26)「文芸時評」 評者=渡辺祐真(スケザネ)さん
《英雄ヘラクレスによる怪物ゲリュオン討伐という題材について、ギリシャの詩人ステシコロスは倒されるゲリュオンの視点から歌い上げた。『赤の自伝』は暴力の被害者たる怪物ゲリュオンの物語を、現代に生きる10代の少年のロマンスへと移し替えた。怪物に振り下ろされた一撃はとどめに過ぎず、死はずっと前から徐々に始まっていたのだ。詩、論文、インタビューなど多彩な文体の翻訳も見事だ》
週刊ポスト(11/11号) 評者=鴻巣友季子さん
《詩人の創造力が爆発するクライマックスに期待いただきたい。男たちが何千年と書いてきたヒロイズムの鼻をへし折る快作だ》
《驚異としかいいようがない書物がごく稀に存在する。『赤の自伝』は、まさにそうした書物だ。(……)パピルスの残欠のような場面が集積されてゆく。こうして怪物退治の英雄談は、怪物が怪物性を失い、英雄が英雄性を失った異質な物語に変容する。理性と陶酔が眩暈のように渦巻く物語に》
産経新聞(11/20) 評者=阿部公彦さん ※共同通信配信
《カーソンの筆致には軽妙な滑走感があるが、その遊び心が、時に痛みやヒヤッとする闇の予感を捉える。身近な世界が、つかの間、遠く見える。胸を突くそんな鋭い刺激に、珠玉の詩の味が詰まっている。(……)時とジャンルの枠を超え、声も目も誰のものか分からない。そんな流動的な語りを実現できたのは、その想像力が、詩がまだ個人の所有物でなかった時代に遠くつながるからだろう》
週刊読書人(12/16) 「二〇二二年の収穫!!」 評者=山本貴光さん
《古代と現代を、韻文と散文を、複数の声のあいだを往来しながら編み上げられるアン・カーソンの名状し難い作品を、達意の翻訳で日本語に映した本》
図書新聞(12/24)「22年下半期読書アンケート」 評者=木村朗子
《1998年刊行の傑作の待望の日本語訳。古代ギリシャ詩人のステシコロスが残したヘラクレスと有翼の怪物ゲリュオンの物語の断片からくみ上げた翻案小説》
本の雑誌12月号 新刊めったくたガイド 評者=藤ふくろうさん
《ノーベル賞の有力候補と評されるカナダの詩人、アン・カーソンの代表作「赤の自伝」は、そのスタイルの独自性に驚かされた。(……)展開の予想がぜんぜんつかないうえに、言葉とイメージの躍動感がすごいので、ずっと驚きながら読んでいた》
週刊読書人12月9日号 評者=田中庸介さん
《「骨」に「肉付け」することこそ、詩の根源にある「比喩」の力であり、そのような意味において伝奇の力が詩と小説をつなぐのは非常にあり得る展開と思われる。この二十年で、詩と短歌の間の壁が思ったほど高くなかったことがわかってきたが、さらに世界的に、詩と小説の間の壁が崩壊しつつあるのではないかと思った》
西日本新聞 評者=川野聡子さん
《(……)つまり現代における英雄と怪物の関係は恋愛を軸にしたものに書き換えられてしまったのだ。この転換はなかなか愉快なものだが、本書の意義がこれだけに留まらないことにも注意したい。(……) 注意深く読めば読むほど、読み手は意味と解釈の重層に誘いこまれてしまうのである》
2023年
「新潮」4月号 評者=町屋良平さん
《読み終えてすぐに、これこそが“小説”だとつよく思った》
《「小説」という言語表現がもちうる可能性や形式のすべてが詰まっている》
読売新聞(3/12)「空想書店」 選者=城戸朱里さん
《驚天動地の小説詩》
「現代詩手帖」4月号 評者=蜆シモーヌさん
《カーソンは随所で譬喩の名手ぶりを見せつけてくる。当の言葉たちがそのことを歓んでいるかのよう》
「俳句四季」1月号 評者=堀田季何さん
《内容は、BL青春ロマンスだけあって、非常に切ない。それも、ただの小説ではなく、ヴァースノベルということもあって、ストーリーが断片的、行間に詩的余韻が漂う感じで、一層切なさが募る》